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【弁護士解説】相続放棄の手続き完全ガイド:戸籍収集から完了まで

執筆者の写真: 弁護士 石塚 誠弁護士 石塚 誠

「家族が亡くなったけれど、借金があるかもしれない…」 「相続放棄をしたいけれど、何から手をつければいいのかわからない…」


相続放棄は、故人の残した財産(プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含む)を一切引き継がないための手続きです。相続放棄を検討されている方の中には、不安や疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。


本記事では、弁護士が相続放棄の手続きについて、戸籍収集の方法から、申述書の作成、提出、そして受理されるまでの流れを、注意点と共にご説明します。


1. 相続放棄とは?


相続放棄とは、相続人が、被相続人(亡くなった方)の権利義務を一切承継しないことをいいます。相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったものとみなされます。


相続放棄を検討すべきケース


  • 被相続人に多額の借金がある場合


  • 特定の相続人に財産を集中させたい場合


  • 相続争いに巻き込まれたくない場合


2. 相続放棄の手続きの流れ


相続放棄の手続きは、以下の流れで進みます。


  1. 戸籍等の収集


  2. 相続放棄申述書の作成


  3. 家庭裁判所への申述


  4. 家庭裁判所からの照会


  5. 相続放棄の受理


2.1 戸籍等の収集


相続放棄の申述には、以下の戸籍等が必要になります。 誰が申述人かによって、必要な戸籍等が異なります。


  • 共通して必要なもの


  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票


  • 申述人が、被相続人の配偶者の場合


  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本


  • 申述人の戸籍謄本(現在のもの)


  • 申述人が、被相続人の第一順位相続人(子またはその代襲者(孫、ひ孫など))の場合


  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本


  • 申述人の戸籍謄本(現在のもの)


  • 申述人が代襲相続人の場合は、本来の相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(戸籍全部事項

    証明書)


  • 申述人が、被相続人の第ニ順位相続人(父母・祖父母など(直系尊属))の場合


  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本


  • 申述人の戸籍謄本(現在のもの)


  • 第一順位相続人が死亡している場合は、同人の出生時から死亡時までのすべての戸籍・除

    籍謄本(戸籍全部事項証明書)、改製原戸籍謄本


  • 申述人が、被相続人の第三順位相続人の兄弟姉妹またはその代襲者(甥、姪))の場合


  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本


  • 申述人の戸籍謄本(現在のもの)


  • 第一順位相続人が死亡している場合は、同人の出生時から死亡時までのすべての戸籍・除

    籍謄本(戸籍全部事項証明書)、改製原戸籍謄本


  • 被相続人の直系尊属(実父母、養父母、祖父母、曾祖父母等)で死亡している方がある場合は、その方の死亡の記載のある戸籍・除籍謄本(戸籍全部事項証明書)、改製原戸籍謄本


  • 申述人が代襲相続人の場合は、本来の相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(戸籍全部事項

    証明書)


【留意事項】


  • 戸籍は、本籍地の市区町村役場で取得できます(郵送請求も可能)。


    ※令和6年3月1日から、本人またはその配偶者及び直系親族の方の戸籍(除籍)謄本、改製原戸籍謄本のみ、本籍地以外の市区町村でも取ることができるようになりました。請求には、官公署が発行した顔写真付きの本人確認書類の提示が必要です。


  • 戸籍は、新しいものから順に取得していくのが基本です。


  • 戸籍の収集が複雑で、ご自身での収集が難しい場合は、弁護士や司法書士などの専門家にご依頼いただくことをお勧めします。


2.2 相続放棄申述書の作成


戸籍等が揃ったら、相続放棄申述書を作成します。


  • 相続放棄申述書は、家庭裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。


  • 申述書には、申述人の住所・氏名、被相続人との関係、相続開始を知った日、相続放棄の理由などを記入します。


2.3 家庭裁判所への申述


相続放棄申述書と必要書類を、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。


  • 提出方法は、郵送または持参のいずれかです。


  • 申述には、収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手(金額は各裁判所によって異なります)が必要です。


2.4 家庭裁判所からの照会


申述後、家庭裁判所から照会書(回答書)が送られてくることがあります。


  • 照会書には、相続放棄の意思確認や、相続放棄の理由などについて質問が記載されています。


  • 回答書に必要事項を記入し、家庭裁判所に返送します。


2.5 相続放棄の受理


家庭裁判所が相続放棄を認める場合、「相続放棄申述受理通知書」が送付されます。


  • この通知書が届くことで、相続放棄の手続きが完了します。


  • 相続放棄申述受理証明書は、相続放棄をしたことを証明する書類として、必要に応じて家庭裁判所に申請して取得します。(例えば、不動産の名義変更手続きや、預貯金の解約手続きなどで必要になります。)


3. 相続放棄の注意点


  • 熟慮期間:相続放棄は、原則として、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に申述しなければなりません。この期間を過ぎると、原則として相続放棄ができなくなります。


  • 単純承認:相続財産の一部でも処分してしまうと、単純承認したとみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。


  • 相続放棄と生命保険金:相続放棄をしても、受取人固有の財産である生命保険金は受け取れます。(ただし、保険金受取人が「相続人」と指定されている場合は、注意が必要です。)


  • 相続放棄と税金:相続放棄をしても、相続税の申告が必要な場合があります。


4. 弁護士に相談するメリット


相続放棄の手続きは、ご自身で行うことも可能ですが、弁護士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。


  • 戸籍収集の代行


  • 申述書の作成サポート


  • 家庭裁判所とのやり取りの代行


  • 相続放棄に関する法的なアドバイス


  • 他の相続人とのトラブル対応(遺産分割協議など)


特に、戸籍収集が複雑なケースや、相続人間でトラブルがあるケースでは、弁護士に相談することを強くおすすめします。


まとめ


相続放棄は、相続人が被相続人の財産を一切引き継がないための重要な手続きです。 本記事を参考に、相続放棄の手続きをスムーズに進めていただければ幸いです。


ご自身の状況で、相続放棄をすべきかどうか迷われている方、手続きに不安がある方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。


【免責事項】


本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の案件に対する法的アドバイスではありません。具体的なご相談は、弁護士にご相談ください。

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