親子関係を争う訴訟には、主に「嫡出否認の訴え」と「親子関係不存在確認の訴え」の2種類があります。これらの訴訟は、いずれも法律上の親子関係を否定するためのものですが、その要件や効果は大きく異なります。
1. 嫡出否認の訴え
嫡出否認の訴えは、民法772条の「嫡出推定」を受ける子について、法律上の父子関係を否定するための訴訟です。
嫡出推定とは
民法772条は、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定する規定です。この推定は、出生した子の父を早期に確定し、子の身分関係を安定させることを目的としています。
嫡出否認の訴えの要件
嫡出否認の訴えは、以下の要件を満たす必要があります。
* 提訴権者:夫のみ
* 提訴期間:子の出生を知った時から3年以内(令和6年4月1日改正)
* 否認事由:夫が子の父でないこと
2. 親子関係不存在確認の訴え
親子関係不存在確認の訴えは、法律上の親子関係が存在しないことの確認を求める訴訟です。嫡出推定を受けない子や、嫡出推定を受ける子であっても例外的に推定が及ばない子に対して親子関係を否定する場合に利用されます。
親子関係不存在確認の訴えの要件
親子関係不存在確認の訴えは、以下の要件を満たす必要があります。
* 提訴権者:子、父、母、その他法律上の利害関係を有する者
* 提訴期間:制限なし
* 不存在事由:法律上の親子関係が存在しないこと
3. 外観説と血縁説:推定が及ばない子の判断基準
推定が及ばない子に該当するか否かの判断基準として、「外観説」と「血縁説」という考え方があります。
* 外観説: 夫による懐胎が不可能であることが外観上明白な場合かどうか判断する見解です。例えば、夫が海外に長期滞在していた、または夫が明らかに生殖能力を欠くような病気に罹患していたなどの事情がある場合には、外観上、夫による懐胎が不可能であると判断される可能性があります。
* 血縁説: 生物学的な血縁関係を重視する考え方です。
現在の裁判実務では、外観説が採用されています。したがって、長期出張などで夫婦間に性交渉を持つことが物理的に不可能であったようなケースでは、嫡出の推定が及ばないと判断される可能性があります。
4. DNA鑑定の結果と法律上の親子関係
DNA鑑定で生物学的な親子関係が否定されたとしても、(外形説からは)嫡出推定が及ぶ子については、親子関係不存在確認の訴えを提起しても、不適法として却下される可能性があります。したがって、たとえDNA鑑定で親子関係が否定されても訴えの期間(子の出生を知った時から3年)が過ぎてしまえば、法律上の親子関係を争うことはできなくなります。
まとめ
嫡出否認の訴えと親子関係不存在確認の訴えは、いずれも法律上の親子関係を争うための訴訟ですが、その要件や効果は大きく異なります。ご自身の状況に合わせて、適切な訴訟を選択することが重要です。
親子関係に関する問題は、非常にデリケートな問題であり、専門的な知識が必要です。弁護士に相談することで、適切なアドバイスを受けることができます。
免責事項
このブログ記事は、一般的な情報提供を目的としており、個別の法的助言を提供するものではありません。具体的な法的問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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